徳翁良高和尚示衆

徳翁良高和尚示衆
徳翁良高和尚示衆

徳翁良高和尚示衆


示衆一則 西來 徳翁 良高


直指單傳の旨は遂に一字を説かす

達磨少林に來ると雖とも九年冷坐して竟に口を開かす

明らかに知るぬ悟なきか故に淨躶々赤洒々なり

然るか故に汝か慈性本來の面目は諸佛諸祖の父母なり

空却より今日に至るまて竟に一毫も損益なし

人々具足個々圓成なり、故に天地虚空は汝か自己の活體なり

地水火風は汝か皮肉骨髓なり、山川草木は汝か自己の面目なり

日月陰陽は汝か自己の活眼睛なり、牆壁瓦礫は汝か自己の腕頭脚根なり

一切衆生は汝か自己の同性體にあらすと云う事なし

知る可し諸行無常は行住坐臥なり

是生滅法は喫茶喫飯なり、生滅々已は掃地煎茶なり

寂滅為楽は採薪汲水なり、生死涅槃は出息入息なり

靈山の拈華、少林の分體、洞山の麻三斤、趙州の無、雲門の胡餅、永平の身心脱落

總て是れ汝か平生底なり、應時随節は遊戲三昧なり

造作する事なかれ、馳求する事勿れ

嗚呼悲しむへき哉

學人錯て自ら懈怠を生し、多くは云ふ多病にして道成し難し

一文不通にして道成し難し、鈍根にして道成し難し

下根にして道成し難しと云ひ

咸な云ふ古人は今人に殊なりと

汝等諸人錯りて恁麼に云ふこと勿れ

知る可し古の日月は今の日月なり

今の溪山雲月は古の溪山雲月なり

古人も眼横鼻直なり、今人も眼横鼻直なり

祖師と云ひ古人と云ひ何の處よりか恁麼に來る

愧へし法に於て今古を隔つることは皆是汝等道心の薄きか故なり

明らかに知りぬ汝か自性は是れ諸佛諸祖の玄體なり何に依てか恁麼に痴暗なる

汝か自性は摩尼寶珠なり何に依てか恁麼に瓦礫なる

汝か自性は是れ金毛之獅子なり何に依てか恁麼に野干鳴なる

蓋し皆是れ汝か欲する所より錯まれるなり

汝一たひ母胎を出生し曾て嬰兒たりしときより以來

此の如き正受三昧悉く是れ具足し來れり

然るを却て長となるに及て善と知り惡と知り有と知り無と知り

今已に五塵三毒の境界に昧没せり

何に依て此の如くなる皆是れ汝等自ら錯る所のみ知る可し

單傳の旨は理智截斷し識心離斷するにあり

理知を留むるか故に一切の境に迷ひを生し、遂に無事を決すること能はず

謂つ可し猶蠶の己れか口より絲を出して、自ら其の身を絆ひ遂に死するか如しと

識神を留むるか故に、一切の境に於て出頭する事能はす

謂つへし猶ほ蠅の頭を以て窓の故紙を撞き

舊處を離れすして出ること能はざるか如しと

愧つ可し、進歩すへし、苟くも退くか故に凡夫となり愚人となり

進くか故に知識となり賢聖となる

今端的底如何か會せんと要せは

汝か心中に向て佛を殺し祖を殺し父を殺し母を殺し

有無を殺し迷悟を殺し自他を殺し森羅萬象を殺し塵々刹々を殺し盡して

目前底空潤たる此地に向て天を蓋ひ地を蓋ひ去るへし

躊躇する事勿れ間斷する事勿れ

這裡に向て若し能く端的ならば妨けす

須彌を拈して微塵裡に入り、佛殿に騎りて燈籠に入ることを恁麼に會するとき

即ち知る天堂地獄も汝か自己の脚根底なり

三毒海中、遊戲安穩、月の水に印するか如く

死生去来、間々にして水の岸上に流れて留まる事無きか如く

忽ち天崩れ地裂けるも曾て驚かす

眼光落地の時節に至るも曾て疑はす

青山白雲と晝夜に歩を同ふし、終に變異ある事なし

且喜すらくは汝か平生底、無事安樂の境界に居る事を

抑も身は是れ地水火風の器物なり、暫く假りに留まると雖とも終に保ち難し

風雨の露、日中の氷、むしろ愛惜すへきものならんや

上來は是れ佛々祖々の身心なり

冀くは此の語に依て佛祖の大恩を知り

共に道心を發起して光陰空しく度ること無くんば

即ち是れ大解脱底の境界ならん而已


跋西來示衆

直指之端的自古天下之老和尚雖能横説堅説然

不能説盡其幽邃之門牆况於片言半句上拈出玄

微之堂奥乎偶有蓬壺居士來示予西來徳翁之垂

示數百言云是將鋟版而報月喚老人恩海以使參

禪之士庶幾撥其迷雲而掲杲日轉其跋鼈而化飛

龍也予乃受而閲之其意深而的實其語乎簡而易

知可謂能説盡佛佛之樞機祖祖之關棙當令學者

免滲漏之病歟所謂毛孔含巨海芥子藏須彌者眞

在此一片之垂示矣

 維時明治十九丙戌初春

  萬年山主 雪古齋 後序

  福嶋縣 蓬壺居士 印施



徳翁良高和尚示衆・賛・瀧谷琢宗
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