「あわてうさぎ」ジャータカえほん
監修者
財団法人鈴木学術財団文化委員 文学博士 干潟龍祥
え 長 新太
ぶん 内山憲尚
この絵本の裏表紙には次のように書いてあります。
リズミカルに構成されたこの話には、驚いて走りだす動物たちの加速度的な参加で盛り上がる緊迫感と、一転してその緊張がほぐされてもたらされる安堵感が対置されています。
なかば笑い話ふうのこの事件ですが、兎にも鹿にもりす(栗鼠)にも、実はこの騒ぎは必死のものであったことがこれを読む子供たちにはよくわかると思います。
それに、この話の暗示するところが、核エネルギーの悪用による世界戦争への脅えにも通ずるとするなら、我々も覚えず肌寒い思いをさせられます。
兎の一こと(一言)で動物たちは惑いうろたえ騒ぎはますます大きくなるばかり、そのままいくとみんなが海へつっこむことになっては笑ってはいられません。
ライオンの登場でやっと事態は収拾されましたが、もし我々がその動物たちの一員であったなら、どんなに恐ろしく気も顛倒したことでしょう。
そのあとはまたどんなに自分たちの責任のないうろたえを恥じたことでしょう。
原話(南伝大蔵経第三二二)でのいましめは、不適当な言葉を使い、人の声に左右されるものは自分をもたず他人に頼るだけだ、とされています。
現代の我々は世界の破滅を防ぐためには、古いこの説話からさえ新鮮なおしえを汲むように努力を惜しまないものでありたいと思います。