赤とんぼ・三木露風 (一)

赤とんぼ ①
赤とんぼ ①
赤とんぼ ②
赤とんぼ ②
田園夕焼け
田園夕焼け

赤とんぼ・三木露風 (一)

 

  赤とんぼ・三木露風 (二) 

 

今東川寺境内には沢山のトンボが飛んでいる。

トンボは意外に高く高く飛ぶ。

境内の木々の先にも届かんばかりである。

赤トンボも飛んでいれば、黒いトンボも飛んでいるが、赤トンボの方が色は綺麗で目立つ。 

 

「赤トンボ」と云えば童謡の「夕焼小焼の赤とんぼ」が思い浮かぶ。

童謡の「赤とんぼ」は三木露風が作詞し、山田耕筰が作曲したのも。

この詞は幼き露風を子守りしてくれていた子守娘の「姐や」に背負われて見た「赤とんぼ」の郷愁の詩である。

 

夕焼、小焼の 赤とんぼ

 負はれて見たのは いつの日か

 

山の畑の 桑の実を

 小籠(こかご)に摘んだは まぼろしか

 

十五で姐や(ねえや)は 嫁に行き

 お里のたよりも 絶えはてた

 

夕やけ小焼やけの 赤とんぼ

 とまっているよ 竿の先   (童謡集「真珠島」より)

 

(この「赤とんぼ」の詞は出版された本によって仮名書きなどの微妙な違いがある。)

 

三木露風は明治22年(1889)に兵庫県揖西郡龍野町で生まれた。

父「三木節次郎」、母「かた」の長男で、名前は「操 みさを」。 

 

母「かた」は明治5年鳥取県で生まれ、明治21年17歳で結婚し、翌年18歳で長男「操」を産んでいる。(いずれも数え年) 後の「露風」である。

露風の幼き頃、よく面倒みてくれたのが子守り娘の「姐や」であった。

 

しかし、露風が7歳の時、母は離婚し、幼き弟「勉」を連れて鳥取の実家に帰ることになり、露風は祖父母のもとで育てられる。

 (露風の母の離婚年は諸説ある。)

 

われ七つ因幡に去ぬのおん母を又かへり来る人と思いし」 (露風・後年作)

 (因幡は現在の鳥取市附近。)

 

露風は幼少の頃から文学的才能があり、12歳の時「赤蜻蛉とまってゐるよ竿の先き」という俳句を作ったと云われている。

 (註、「三木露風研究1竜野時代」 家森長治郎 参照)

 

露風が大正10年8月号「樫の實」に発表した此の「赤とんぼ」の歌の最後の部分に、この句が採用されている。

 

後に露風は、この「赤とんぼ」の歌を顧みて「赤とんぼのこと」と題して次のように書いている。

 

赤とんぼのこと  三木露風

 

「とんぼが飛ぶ頃になると、時は暑くはなく寒くはなく、よい気候となるのである。・・・・・・・

私が作った童謡に「赤とんぼ」と題する作がある。次に擧げる童謡である。 

(夕焼小焼の赤とんぼの歌詞・省略)

 

これは、私の小さい時のおもいでである。

『赤とんぼ』を、作ったのは大正十年で、處は、北海道函館附近のトラピスト修道院に於いてであった。

或日午後四時頃に、窓の外を見て、ふと眼についたのは、赤とんぼであった。

静かな空気と光の中に、竿の先に、じっととまっているのであった。

それが、かなり長い間、飛び去ろうとしない。

私は、それを見ていた。

後に、『赤とんぼ』を作ったのである。

関係のある『樫の實』に発表した。

家で頼んだ子守娘がいた。

その娘が、私を負うていた。

西の山の上に、夕焼していた。

草の廣場に、赤とんぼが飛んでいた。

それを負われてゐる私は見た。

そのことをおぼえている。

北海道で、赤とんぼを見て、思いだしたことである。 ・・・・・・・(後述略)」

 

◎上記出典

「トンボ コレクション 各界名士による《とんぼ随想》・『赤とんぼのこと 三木露風』」より

http://www.tombow.pippo.jp/miki/index.html一部掲載の許可を得る。(2016.8.22.)

 

なんとこの「赤とんぼ」の詞は北海道で作詞したのだ。

 

露風は北海道函館の近く(現・北斗市)の「トラピスト修道院」で大正9年から四年間、国語教師として務めている。

ここに滞在中、大正10年(1921)に「赤とんぼ」を作詞し「樫の實」に発表し、さらに「赤とんぼ」を含めた童謡集「真珠島」を出版した。 

 

童謡集「真珠島」は大正10年12月18日、合資会社アルス(ARS)から発行された。

 

その後、二度この童謡集「真珠島」は覆刻されている。

一度目は、1974年に名著復刻・日本児童文学館・第二集としてほるぷ出版から覆刻された。

二度目は、三木露風生誕百周年を記念してご遺族、関係諸団体の了解を得て覆刻された。(1989年頃か?)

この覆刻本には「三木露風生誕百年記念復刻出版事業 童謡の里龍野文化振興財団刊」と書箱の裏に小さく印刷されていて、家森長治郎著の「童謡集『真珠島』について」と云う小冊子が付いている。

 (掲載した童謡集「真珠島」は生誕百年記念覆刻版)

 

尚、露風の生誕地兵庫県竜野市(現・たつの市)では「三木露風生誕百年祭」を開催し、童謡作曲コンクール(三木露風賞)、童謡コンクールなどを開いている。 

 

童謡 真珠島  1921  三木露風作
童謡 真珠島 1921 三木露風作
童謡集『真珠島』について・家森長治郎
童謡集『真珠島』について・家森長治郎